「真実はどっち?」 おすすめ度:
投稿日:2005-02-08
今から10年前、慶応大医学部近藤誠氏の『患者よガンと闘うな』は社会に一大センセーションを巻き起こした。なにしろ、ガンは切っても直らないから切るだけ損、ということを現役の大学病院の先生がのたまったのである。
近藤氏は現在も、がんに対する外科治療の有効性を否定する論説を続けているから、当時の出版とはいえ、近藤説に対する真正面からの反論として本書は今も有効である。
さて、著者の斎藤氏は、30年のキャリアをもつベテランの病理医の立場から、細胞としてのガンの性質を詳細に解き明かすことで、近藤理論の誤りを指摘する。
近藤理論のキモは、
・ガンは見つかる大きさになった時には既に転移しており手遅れ
というものであ驕B
転移したガンの大きさから転移時期を逆算すると、もとのガンが非常に小さくて絶対見つからない頃に転移したことになる。だから検診で見つかったガンを手術で切り取っても時すでに遅しなのだ、という理屈だ。
斎藤氏は、近藤説の論拠になっているこの計算方法自体の誤りを指摘していて明快である。がん細胞には非常に多くの種類があって、近藤説のような単純なネズミ算では転移時期の計算はできなさそうだ。
ここまできて、どっちがほんとのことをいっているのか、さっぱりわからなくなってしまったので、統計ヌのHPで『主要死因別死亡者数』を調べてみた。すると、確かに斎藤氏のいうように、胃がんで死ぬ人のパーセンテージはここ30年で劇的に減少している。ところが、である。ガンで死亡する人自体は逆に2倍以上に増えているのである。
検診で胃にガンが見つかったので、胃をとってしまいました。だから胃ガンはなくなったのですが、残念ながら、別のガンで死にました、という風にしか考えられない。ちなみに65歳以上の人口の増加率とガン死の増加率がかなり近似している。ガン死増加の原因は単純に、老人が増えたから、といえるかのもしれない。細部の理論武装には弱いが、大局的にみれば、近藤説(=切っても切らなくても結果は同じ)もあながち間違いではないかもしれない。
さてどうするか。自分の胃にガンが見つかったとき、きるのかきらないのか。肉親の胃にガンが見つかったとき、なんというのか。
他人事のようにデータ分析しているうちは、この問題の本質には、きっと辿り着けないのだと思う。人間は原因が何であれ、いつかは死ぬ。近藤は斎藤に比べ、その諦観に少しだけ近い気がするが、いずれにしても、近藤説を信奉する人は、一度、斎藤反論を読んでみて欲しい。そのうえで、どちらを信じるか。ゆっくりと考えてみるのもまた一興である。